バックアップの方法と3-2-1ルール|空調保守データの守り方
公開日:最終更新日:
編集・発行:KMC株式会社
結論: 3つ持ち、2種類に分け、1つは離す。そして戻せるか試す
バックアップの基本は「3-2-1ルール」です。IPA(情報処理推進機構)は、データのコピーは本体を含め3つ以上持ち、それらは2種類のメディアでバックアップを保管し、そのうち1つは稼働システムとは異なる拠点などで保存する、と説明しています。例として、パソコン本体+バックアップ用の記憶装置+クラウドサーバーの組み合わせが挙げられています。
ただし、取っているだけでは足りません。警察庁の統計では、令和7年にランサムウェア(データを暗号化して身代金を要求する不正プログラムのこと)の被害に遭った組織のうち、バックアップから復元できたのは有効回答99件のうち20件でした。バックアップ装置はバックアップのときだけつなぐこと、戻せるかを定期的に確かめることまでがバックアップです。
なぜ「取っていたのに戻せない」のか
警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」の統計編から、ランサムウェアの被害組織へのアンケート結果を整理します。
| 項目 | 令和7年の結果 |
|---|---|
| バックアップを取得していた | 有効回答116件のうち105件 |
| バックアップから復元できた | 有効回答99件のうち20件(できなかったのは79件) |
| 復元できなかった理由 | 有効回答72件のうち、バックアップの暗号化・消去が48件、運用不備が19件、その他が5件 |
ほとんどの組織がバックアップを取っていたのに、多くは戻せませんでした。最大の理由は、バックアップ自体も一緒に暗号化・消去されたことです。警察庁は、ランサムウェアによりバックアップデータも暗号化されてしまう事例が多数確認されているとして、バックアップはなるべくこまめに取得し、ネットワークから切り離してオフラインで保存するなど、暗号化されないように備えることを勧めています。
2番目の理由の運用不備は、取得が止まっていた、戻し方が分からなかった、といった日頃の管理の問題です。警察庁は、被害を想定した訓練でバックアップによる復旧手順を確認しておくことも勧めています。
空調工事会社のバックアップ対象
最初に、何を守るかを決めます。IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版も、バックアップの対象と頻度を定め、遠隔地を含めた保管方法と復元の手順書を整備するよう求めています。
| データ | 置き場所の例 | 止まったときの影響 | 頻度の目安 |
|---|---|---|---|
| 保守契約の台帳・点検予定 | クラウドの業務システム、事務所のExcel | 夏の修理受付と点検の段取りが止まる | 毎日 |
| フロン類の点検整備記録 | 点検記録のシステム、紙のファイル | 顧客(管理者)が保存すべき記録が失われる | 点検のたび |
| 見積・原価・請求 | 事務所のパソコン、会計ソフト | 請求と支払いが止まる | 毎日 |
| 施工図・完成図・打合せ記録 | 事務所のNAS(共有ディスク) | 改修工事や不具合対応の根拠がなくなる | 週1回と工事完了時 |
| 工事・点検の写真 | 写真アプリのクラウド、NAS | 品質の証明、次回の提案の材料がなくなる | 撮影のたび(自動) |
頻度は、失っても取り戻せる時間で決めます。毎日入力するものは毎日、工事が終われば変わらないものは工事完了時に、という考え方です。
法律で保存期間が決まっている記録
空調工事会社が扱う記録には、法律で保存期間が決まっているものがあります。バックアップの保管期間を決める際の目安になります。
| 記録 | 保存期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| フロン類の点検整備記録簿(第一種特定製品の管理者が保存) | 機器の廃棄等を行い、冷媒の引渡しを完了した日から3年を経過するまで。紙でも電子媒体でもよい | フロン排出抑制法(環境省のポータルサイトの説明) |
| 建設業法の帳簿と添付書類 | 工事の目的物の引渡しから5年間(発注者と結んだ住宅新築工事は10年間) | 建設業法施行規則第28条第1項 |
| 営業に関する図書(完成図、発注者との打合せ記録、施工体系図、材料費等記載見積書など。元請か下請かで範囲が異なる) | 引渡しから10年間 | 建設業法施行規則第28条第2項・第26条第5項 |
建設業法の帳簿と図書は、電子計算機のファイルなどに記録し、必要に応じて画面や紙に明確に表示できれば、紙に代えることができると規則第26条で定められています。電子で保存するなら、その電子データ自体のバックアップが保存義務を守ることにもなります。
フロン類の点検記録は、本来の保存義務者は機器の管理者(顧客)ですが、点検を請け負う空調工事会社が記録を作り、管理していることが多いはずです。点検記録の全体像はフロン排出抑制法の実務対応で解説しています。
3-2-1ルールを空調工事会社に当てはめる
| ルール | 具体例 |
|---|---|
| 3つ持つ | 業務で使っている元データ、事務所の外付けディスク、クラウドのバックアップ |
| 2種類の媒体 | 外付けディスク(物理的な媒体)とクラウド(インターネット上の保存先) |
| 1つは別の場所 | クラウド、または社長の自宅や別の営業所など、事務所とは違う場所 |
| 切り離す | 外付けディスクはバックアップのときだけつなぎ、終わったら外して施錠保管する |
IPAのガイドラインは、複数のタイミングのバックアップを残す「世代管理」と、元のシステムから物理的に分離した場所に保存する「物理的隔離」を挙げています。たとえば毎日のバックアップを4日分残しておけば、暗号化に気づくのが2日遅れても、その前の状態に戻せます。
クラウドストレージを使うときの注意
クラウドの「同期」は、バックアップとは別物です。事務所のパソコンでファイルが暗号化されたり消えたりすると、その変化がクラウドにも同期されることがあります。
- 過去の版に戻せる機能(版の履歴)があるか、何日分残るかを確認する
- クラウドのアカウントに二段階認証を設定する。アカウントを取られるとバックアップも消される
- 共有リンクの範囲を「指定した人だけ」にする。IPAの6か条でも「共有設定を見直そう!」が挙げられています
- 解約したときにデータを一括で取り出せるかを確認する
復元テストのやり方(チェックリスト)
- 冷房・暖房シーズンの前など、社内で決めた時期に、バックアップから1つのフォルダを別の場所に戻し、ファイルが開けるか確かめた
- 戻すのにかかった時間を記録した
- 手順書(どこに、何が、どの順で戻すか)を紙で保管している
- 担当者が休みでも、もう1人が戻せる
- 外付けディスクは普段つないでいない
- バックアップが止まっていないか、最新の日付を毎月確認している
ランサムウェアの被害を想定した初動はランサムウェア対策の記事で、システムが止まったときに修理受付を紙で回す準備もあわせて解説しています。
まとめ
- バックアップの基本は3-2-1ルール。コピーを3つ、媒体を2種類、1つは別の場所に保管します
- 令和7年のランサムウェア被害では、バックアップから復元できたのは99件中20件。最大の理由はバックアップ自体の暗号化・消去でした
- 外付けディスクはバックアップのときだけつなぎ、クラウドは版の履歴と二段階認証を確認します
- フロン類の点検記録や建設業法の帳簿・図書には保存期間があります。電子保存なら、そのバックアップが保存義務を支えます
出典・参考
- IPA「情報セキュリティ6か条 解説編」(2026年9月、PDF)(No.5 バックアップ、3-2-1ルール)
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」第4.0版(適切なバックアップを行う、世代管理・物理的隔離)
- 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(令和8年3月、PDF)(統計編 バックアップの取得状況・復元結果・復元できなかった理由)
- 警察庁「ランサムウェア被害防止対策」(バックアップを取得する、被害を想定した訓練を行う)
- 環境省「フロン排出抑制法ポータルサイト」点検・整備の記録
- 建設業法施行規則(e-Gov法令検索)(第26条、第28条)
- CISA「Back Up Business Data」(英語)(3-2-1 rule)
法令・統計・サービスの仕様は変わることがあります(最終確認:2026-10-14)。
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