空調工事の原価とは|機器費・材料費・労務費の内訳と按分
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編集・発行:KMC株式会社
空調工事の原価は、エアコン本体などの「機器費」、銅管・ダクト材・保温材などの「材料費」、協力会社への「外注費」、自社の職人・管理者が動いた分の「自社労務費」という4つの直接原価と、現場管理や会社運営にかかる間接費でできています。国交省の公共建築工事積算基準も、工事費を直接工事費と共通費(共通仮設費・現場管理費・一般管理費等)に分け、直接工事費は機器類・材料の価格や、材料費・労務費などで構成した単価に数量を掛けて積み上げる考え方をとっています。
原価管理の要は、この内訳を案件ごとに捕まえることです。決算書では会社全体の利益は分かっても、どの案件で儲かり、どの案件で溶かしたのかは分かりません。この記事では、空調工事の原価を案件単位で捕まえる実務を、完璧主義に陥らない現実的な粒度で解説します。利益率全体の考え方は利益率の改善も参照してください。
原価の内訳:4つの直接原価と間接費
| 要素 | 中身 | 集める難易度 |
|---|---|---|
| 機器費 | エアコン本体(室内機・室外機)・換気機器・部品 | 低い(仕入伝票が案件に紐づく) |
| 材料費 | 銅管・ダクト材・保温材・支持金物・消耗品 | 中(共通購入の按分が問題) |
| 外注費 | 協力会社への発注 | 低い(発注書が案件に紐づく) |
| 自社労務費 | 自社職人・管理者の稼働 | 高い(記録の仕組みが要る) |
これに加えて、現場の管理運営にかかる費用(現場管理費)や、会社を続けるための費用(一般管理費)があります。案件別の原価管理では、まず4つの直接原価を捕まえ、間接費は後述のとおり一定のルールで扱います。
国交省の積算基準との対応表
公共建築工事積算基準(国土交通省)は、工事費の構成を次のように定めています。自社の原価区分がどこに当たるかを対応させておくと、公共工事の内訳書を読むときにも、自社の見積の組み立てを見直すときにも役立ちます。
| 積算基準の区分 | 基準での定義(要旨) | 自社の原価管理での対応 |
|---|---|---|
| 直接工事費 | 工事目的物を造るために直接必要な費用(直接仮設を含む) | 機器費・材料費・外注費・自社労務費 |
| 共通仮設費 | 各工事種目に共通の仮設に要する費用 | 現場事務所など複数工種に共通の仮設。案件単位で集計 |
| 現場管理費 | 工事現場を管理運営するために必要な費用で、共通仮設費以外のもの | 現場管理者の人日、現場経費 |
| 一般管理費等 | 受注者の継続運営に必要な費用で、一般管理費と付加利益等からなる | 本社経費と利益。案件原価には入れず粗利から賄う |
基準では、直接工事費と共通仮設費を合わせたものが純工事費、純工事費と現場管理費を合わせたものが工事原価、工事原価と一般管理費等を合わせたものが工事価格です。直接工事費の算定方法は、材料価格・機器類価格に数量を掛ける方法と、単位施工あたりの材料費・労務費・機械器具費等で構成した単価に数量を掛ける方法、それらによりがたい場合の「一式」計上の3つとされています。
機器費:エアコン本体の原価をどう捉えるか
「エアコンの原価」というとき、工事会社にとっての機器費は、メーカー・商社からの仕入価格です。仕入条件は取引先・数量・時期で変わるため、機器費は案件ごとに実際の仕入伝票で計上します。
- 発注時に案件番号を付ければ、機器費はほぼ自動的に案件へ紐づきます
- 見積書では、機器費と工事費(材料・労務)を分けて示すと、発注者との価格交渉で「どこが高いのか」を説明しやすくなります
- 建設業法第20条第1項は、建設業者に対し、工事の種別ごとの材料費・労務費などの内訳と、工程ごとの作業に必要な日数を記載した見積書(材料費等記載見積書)を作成するよう努めることを求めています。同条第2項は、そこに記載する材料費等の額を、通常必要と認められる額を著しく下回るものにしてはならないとしています。原価の内訳を持っていることは、この見積書を作るための前提でもあります
材料費の按分:精密さより一貫性
銅管や消耗品は複数現場のためにまとめ買いされます。これを1本単位で案件に割り付けようとすると運用が続きません。現実的な割り切りは次のとおりです。
- 金額の大きい材料(大口の配管材・ダクト製作品)だけ案件に直接紐づける
- 細かい消耗品・共通材は「共通材料費」として月次で把握し、自社で決めた一定のルールで案件に按分するか、粗利目標の側に織り込む
- 現場への持ち出しが大きかった案件だけ、メモで補正する
大事なのは、精密さより毎回同じルールで測ることです。按分の率は業界の目安を借りるのではなく、自社の過去の共通材料費と売上の実績から決め、決めたルールを記録しておきます。
自社労務費:原価管理の本丸
最も重要で、最も抜けがちなのが自社労務費です。外注に払えば原価と認識されるのに、自社の職人が動くと「タダ」のように扱われる。この錯覚が「自社施工の案件はぜんぶ黒字に見える」という経営の目の歪みを作ります。
- 1人日あたりの社内単価を決める。考え方は「人に紐づく年間費用(給与・法定福利費・車両など)÷ 年間の稼働人日」です。最初は全員一律の単価で構いません
- 案件ごとの投入人日を記録する。日報や工程表から「誰がどの案件に何日入ったか」を拾います。日報に案件名の欄を足すだけで始められます
- 人日×社内単価を案件原価に載せる。これで「自社施工だから儲かったように見えた案件」の実像が出ます
移動時間・段取り・手直しの時間も人日に含めてください。ここを含めた瞬間に、小さい現場を数多く回す仕事の本当のコストが見え始めます。
案件別原価集計シート(ひな形)
表計算で始めるときの列構成の例です。数値は自社の伝票と日報から入れてください。
| 列 | 入れる内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| 案件番号・案件名 | 発注・日報と共通の番号 | 受注台帳 |
| 売上(契約額) | 追加・変更を含めた最新の契約額 | 契約書・変更契約 |
| 見積時の想定原価 | 機器・材料・外注・人日の4項目 | 見積書の内訳 |
| 実績 機器費 | 案件番号付きの仕入 | 仕入伝票 |
| 実績 材料費 | 直接紐づけ分+按分ルールによる共通材料費 | 仕入伝票・按分ルール |
| 実績 外注費 | 案件番号付きの発注 | 発注書・請求書 |
| 実績 自社労務費 | 投入人日×社内単価 | 日報 |
| 粗利・粗利率 | 売上−実績原価の合計 | 自動計算 |
| 差異の原因メモ | 想定と実績の差が大きい項目の理由を一言 | 担当者 |
月次で回す:締めてから知るのでは遅い
- 進行中案件は、見積時の想定原価に対する消化率を月次で見ます。工程の進み具合より原価の消化が先行している案件は、赤字への転落候補です
- 完了案件は、見積粗利と実績粗利の差を確認し、差が大きい案件だけ原因を一言記録します(拾い漏れ・追加のサービス工事・手戻り・工期延長など)。この蓄積が見積精度と値決めの改善データになります
- 月次の会議で見るのは全案件の明細ではなく、粗利率の低い順に数件で十分です。悪い案件から学ぶ運用が続くコツです
赤字案件の原因は4つに分けられる
- 見積が安すぎた(拾い漏れ・単価の古さ・戦略なき値引き)
- 原価が想定より膨らんだ(材料高騰・手戻り・工期延長による労務増)
- 請求が漏れた(追加工事の未請求・精算交渉の失敗)
- そもそも受けるべきでなかった(条件の悪い案件の常態化)
原因の分類を記録し続けると、弱点が1〜4のどこに偏っているかが見えます。1なら見積プロセス、2なら施工管理、3なら契約・見積条件の運用、4なら受注判断。改善の優先順位が、感覚でなくデータで決まります。
見積時の想定原価とセットで回す
実績は「見積時に何を想定していたか」と比べて初めて評価できます。見積書の内訳がそのまま想定原価表になる形が理想です。完了時に想定と実績を並べ、「機器は想定どおり、労務が想定を大きく超えた」のように差の大きい項目に印をつけます。この突合を重ねると、労務を甘く見る・雑材を忘れるといった自社の見積の癖がデータで見えます。
原価データを会議に載せるときは、悪い数字の担当者を責める場にしないことが大切です。責められると次から数字が正直に入力されなくなります。「誰が悪かったか」でなく「見積・段取り・契約のどの仕組みに穴があったか」を問う形に固定します。修理・保守のような小口案件は、1件ずつではなく月単位で「部門としての投入人日と粗利」を見る割り切りも有効です。
小さく始める導入手順
- 今月から、機器・外注の発注に案件番号を付ける
- 社内単価を1つ決め、日報に案件名欄を足して人日を拾う
- 表計算で上の「案件別原価集計シート」を作る
- 月次で粗利率の低い案件だけレビューし、原因を一言記録する
- 運用が回り始めたら、原価入力と粗利の自動計算ができる案件管理の仕組みに載せ替え、転記をなくす
始めたばかりの頃は数字の精度を疑いたくなりますが、やめないでください。精度は運用の中でしか上がりません。粗い数字で早く回し、毎月少しずつ直すのが定着への近道です。
まとめ
- 空調工事の原価は、機器費・材料費・外注費・自社労務費の直接原価と、現場管理費・一般管理費などの間接費で構成されます
- 国交省の積算基準の工事費構成(直接工事費・共通仮設費・現場管理費・一般管理費等)と自社区分を対応させておくと、見積の組み立てが整理できます
- 機器・外注は案件番号で捕まえ、材料は自社で決めた一貫したルールで按分します
- 本丸は自社労務費です。社内単価×人日で、自社施工の本当のコストを見える化してください
出典・参考
- 公共建築工事積算基準(平成28年改定)(国土交通省大臣官房官庁営繕部)
- 公共建築工事積算基準 掲載ページ(国土交通省)
- 建設業法 第20条(e-Gov法令検索)
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