空調更新の提案書のつくり方|3本柱の構成と根拠資料
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編集・発行:KMC株式会社
結論: 更新提案は「電気代・故障リスク・部品供給」の3本柱を、根拠つきで示す
空調の更新提案書は、顧客の「まだ動いているのに、なぜ今換えるのか」に、電気代・故障リスク・部品供給の3本柱で答える構成にします。それぞれの柱は、電力量の実測や電気料金明細、その機器の修理履歴、メーカーへの部品保有期間の確認といった根拠で示し、断定的な削減額の保証はしません。業務用エアコンはフロン排出抑制法の「第一種特定製品」にあたるため、撤去する機器のフロン類の回収と引取証明書の扱いも提案に入れておきます。
更新工事は「壊れてから」ではなく「提案で」生まれる
空調の更新工事には、2つの生まれ方があります。ひとつは機器が壊れて緊急で入れ替える受け身の更新。もうひとつは、計画的に入れ替える提案からの更新です。
受け身の更新は価格競争になりがちで、工期も夏場の突貫になり、顧客にとっても最悪のタイミングでの出費になります。一方、提案からの更新は、時期を選べて、価格も納得ずくで、「あの会社が言ってくれたおかげで夏の故障を避けられた」という信頼が残ります。つまり更新提案書は、営業ツールであると同時に顧客の設備リスクを下げるサービスです。
まず読み手を見極める
同じ内容でも、誰が読むかで刺さる論点は変わります。
- 経営者・オーナー: 関心はお金と経営リスクです。投資額、故障で営業が止まるリスク、資産価値。技術の細部は判断材料になりません
- 施設管理者・総務: 関心は「自分の仕事が増えないか」です。故障対応の負担減、テナントからのクレーム減、上司へ説明しやすい資料かどうか
- テナントの店長など現場: 関心は快適性と営業への影響です。工事中の営業をどう守るかが最大の説明ポイントになります
提案書は最終決裁者に届く前提で作りつつ、窓口担当者が「社内で説明しやすい」構成にします。専門用語を使わず、写真と表で語る資料は、窓口担当者があなたの代わりに社内で説明してくれる資料です。
提案の3本柱: 電気代・故障リスク・部品供給
柱1: 電気代(省エネ効果)
老朽機から新しい機種への更新では、消費電力の削減が見込めることがあります。伝え方の注意は次のとおりです。
- 削減効果は「見込み」として示す。新旧機種のカタログ値(APF:通年エネルギー消費効率のこと。数値が大きいほど年間を通じた効率が高い)の比較を基礎に、使用時間・負荷の前提を明記します。断定的な金額保証のような書き方は、後々の信頼を損ないます
- 可能なら実測に基づく。電力量の実測や電気料金明細から空調分を推定できれば、机上の一般論より説得力が増します
- 電気料金の単価に触れる。単価が上がるほど省エネの価値は上がる、という構造の説明は経営者に響きます
柱2: 故障リスク
- その機器の修理履歴(回数・金額・症状)を時系列で見せます。履歴が記録されていれば、この資料はすぐ作れます。ここで修理履歴の蓄積が営業資産に変わります
- 「真夏に止まったら何が起こるか」を具体化します。営業停止・在庫廃棄・入居者クレームなど、顧客の業種に即した損害のシナリオです
- 繁忙期は機器の納期も工事の人手も逼迫しやすいことを伝え、計画更新なら時期を選べる利点を示します
柱3: 部品供給と冷媒
- 補修用部品には保有期間があります。日本冷凍空調工業会の業務用エアコンのパンフレットは、保証期間外の故障修理で必要となる補修部品について「保有期間(製造打切りから9年間が一般的)」があるとし、機器の製造元に確認するよう案内しています。提案書には、その機種の製造打切り時期と保有期間をメーカーに確認した結果を載せます。「次に壊れたとき、部品がなく直せない可能性がある」は、先送り派に効く事実です
- 冷媒の制度は断定を避け、フロン排出抑制法の解説のような情報提供の形で添えます。業務用のエアコンで冷媒としてフロン類が充塡されているものは、フロン排出抑制法の「第一種特定製品」です(第2条第3項)
3本柱の根拠資料チェックリスト
提案書の主張ごとに、何を根拠として添えるかを揃えます。
| 主張 | 添える根拠 | 入手先 |
|---|---|---|
| 電気代が下がる見込み | 新旧機種のカタログ値(APF等)、電力量の実測値または電気料金明細、計算の前提(使用時間・負荷) | メーカーのカタログ、顧客の明細、自社の計測 |
| 故障リスクが高まっている | 修理履歴(日付・症状・金額)、点検報告書の指摘事項、劣化箇所の写真 | 自社の点検・修理記録 |
| 部品が手に入らなくなる | 機種の製造打切り時期、補修用部品の保有期間 | メーカーへの確認(業界の一般的な考え方は日本冷凍空調工業会の資料) |
| 撤去時のフロン類の扱い | フロン類の回収を第一種フロン類充塡回収業者が行うこと、引取証明書の交付を受けること | フロン排出抑制法第41条・第45条 |
| 工事中の営業への影響 | 工程案、停止範囲、作業時間帯 | 自社の工程計画 |
機器台帳には、日本冷凍空調工業会のパンフレットが保守点検の依頼時に業者へ伝える情報として挙げている、据付・試運転の年月日、機器一覧(室内機・室外機等の形式名称と台数)、据付平面図・配管系統図など配置と組合せが分かる資料、24時間運転など特異な使用形態の情報を揃えておくと、更新提案の「現状のまとめ」がそのまま作れます。
撤去する機器のフロン類: 提案と見積に入れておくこと
更新工事では既設機器を撤去します。フロン排出抑制法では、第一種特定製品の廃棄等を行おうとする管理者(第一種特定製品廃棄等実施者)は、自ら又は他の者に委託して、第一種フロン類充塡回収業者にフロン類を引き渡さなければなりません(第41条)。フロン類を引き取った第一種フロン類充塡回収業者は引取証明書を交付し、廃棄等実施者は引取証明書で引渡しの終了を確認して保存します(第45条)。
提案書では、撤去機器のフロン類の回収を誰が行うか、引取証明書を顧客がどう受け取るかを工事内容と見積に明記しておくと、決裁者が安心して判断できます。手続きの詳細はフロン排出抑制法の解説を参照してください。
構成テンプレートと見せ方
読まれる提案書の構成はシンプルです。
- 現状のまとめ(1ページ): 設置機器の一覧・設置年・状態。現地調査の写真(劣化箇所・銘板)を載せ、「うちの設備の話だ」と分かる具体性を持たせます
- リスクと放置した場合(1ページ): 3本柱のうち、その顧客に効く順に。修理履歴グラフはここに置きます
- 提案内容(1〜2ページ): 更新範囲・機種・工事の進め方(営業への影響と対策を含む)。複数案(全面更新・段階更新)を比較表で並べ、推奨案に理由を付けます
- 金額と条件(1ページ): 概算金額・工期・見積条件。撤去機器のフロン類回収の扱いもここに書きます。段階更新の場合は年度ごとの予算平準化を見せます。機器価格・納期は変動するため、提案書にも有効期限を明記しておきます
- 実績・体制(1ページ): 同種の施工実績と保守体制。竣工後の保守まで含めた長い付き合いの提案にします
比較表の軸は、初期費用・電気代の傾向・故障時に止まる範囲・工事中の営業影響の4つに揃えると、技術に詳しくない決裁者でも判断できます(機器構成の考え方は業務用エアコンの種類と選定、現地で確かめる項目は更新工事の現地調査)。
提案書のNG集: 良かれと思って外すパターン
- 専門用語の洪水。冷媒種・馬力・系統図を最初のページに並べると、決裁者はそこで読むのをやめます。技術情報は後ろの添付資料に回し、本文は「何が起こるか・いくらか・いつやるか」で書きます
- 不安を煽りすぎる。「いつ壊れてもおかしくない」の連呼は、営業トークとして扱われて逆効果です。事実(設置年・修理履歴・部品保有期間)を淡々と示すほうが伝わります
- 根拠のない数字。出典や前提のない削減率・削減額は、相見積の相手に突かれたときに信頼ごと崩れます
- 1案の押し付け。全面更新の1案だけの提案は、「他に選択肢はないのか」という疑念で止まります。全面・段階・現状維持(リスク明記)の3案比較にし、顧客に選ばせる形が結局早く決まります
- 見積だけ厚い。金額の内訳が厚く、なぜ必要かの説明が薄い提案書は、価格比較の材料にしかなりません
- 誤字と使い回しの痕跡。別の会社名・建物名が残った提案書は、それだけで信頼を失います。施工計画書の使い回し事故と同じ構造の、防げる失点です
タイミングと動線: 提案書は点検から生まれる
更新提案の最良のタイミングは、機器が調子を崩す前の、点検報告の場です。
- 点検報告書の指摘事項に「推奨時期」を書き続けていれば、更新提案は唐突な営業ではなく、積み重ねの帰結として受け取られます
- 提案の時期は顧客の予算サイクルに合わせます。来期予算の編成前に出す提案は、同じ内容でも通り方が違います
- 断られても、翌年また出します。設備は確実に1年古くなり、提案の根拠は毎年強くなります。失注理由と再提案時期を記録しておくことが、翌年の受注につながります
- 故障・修理の対応直後も好機です。応急対応で信頼を得た直後の「次に備える提案」は、平時の提案より真剣に読まれます
この動線の土台は、機器台帳・点検記録・修理履歴が顧客ごとに蓄積されていることです。保守契約の運用が回っている会社ほど、更新提案は「作る」ものではなく「積み上がる」ものになります。
まとめ
- 更新提案は受け身の緊急更新を計画更新に変える、顧客のためのリスク管理サービスです
- 電気代・故障リスク・部品供給の3本柱で「なぜ今か」に答え、主張ごとに根拠資料を添えます
- 補修用部品の保有期間は製造打切りからの年数で決まります。その機種の状況はメーカーに確認して載せます
- 撤去機器のフロン類の回収と引取証明書の扱いを、工事内容と見積に明記します
- 提案は点検報告の積み重ねから生まれます。台帳と履歴の蓄積が、そのまま提案力です
出典・参考
- e-Gov法令検索 フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(平成13年法律第64号) 第2条第3項・第41条・第45条
- 一般社団法人 日本冷凍空調工業会「定期的な保守・点検のおすすめ 業務用エアコンを長く安心してお使いいただくために」(PDF)(「保守・点検契約に当たって」「保証について」)
法令は改正されることがあります。補修用部品の保有期間は機種ごとにメーカーへ確認してください(最終確認:2026-10-01)。
関連リンク
※ 2026年10月1日:冒頭で更新提案の構成を言い切る形に改め、日本冷凍空調工業会の資料による補修用部品の保有期間の考え方、フロン排出抑制法(第2条第3項・第41条・第45条)による撤去機器のフロン類の扱い、3本柱の根拠資料チェックリスト、出典を追加しました。出典で確かめられない「機器の効率はこの十数年で大きく向上」等の記述は、カタログ値で比較する形に改めました。
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