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吸収式冷凍機の仕組みと保守のポイント

吸収式冷凍機の仕組みと保守のポイント

「ガスで冷やす」機械の正体

中規模以上のビルの機械室で、大きな箱型の熱源機に出会うことがあります。銘板には「吸収冷温水機」。圧縮機がないのに冷水を作り、しかも1台で暖房の温水まで賄う。電気ではなくガスや蒸気の熱で冷やすこの機械が、吸収式冷凍機です。

チラーの記事で触れたとおり、熱源の世界は圧縮式と吸収式の二本立てです。新規導入では電動チラーが優勢な時代になりましたが、既設の吸収式は今も多くのビル・工場で現役であり、その保守・更新の相談は設備会社に日常的に来ます。原理と保守の急所を知らないままでは、この相談に立てません。この記事では、吸収式の仕組みを実務に必要な粒度で解説します。

原理: 圧縮機の代わりに「熱と吸収液」を使う

冷凍サイクルの本質は、冷媒を蒸発させて熱を奪い、それをどこかで凝縮させて捨てる循環です。圧縮式はこの循環を圧縮機(電気)で回します。吸収式は同じ循環を、まったく別の方法で回します。

  • 冷媒は水です。機内を高真空に保つことで、水は低温でも蒸発できるようになります。蒸発器で水が蒸発し、冷水配管の水から熱を奪う。これが「冷やす」の正体です。真空の中では水は常温でも沸騰する、という理科の実験を思い出すと理解が早いはずです
  • 蒸発した水蒸気を、吸収液(臭化リチウム水溶液)が吸い込みます。吸収液が蒸気を吸うから、蒸発が続きます
  • 蒸気を吸って薄まった吸収液を、加熱(ガス・蒸気・排熱)して水分を追い出し、濃い液に再生します。ここが「熱で駆動する」部分です
  • 追い出された水蒸気は冷却水で冷やされて水に戻り、再び蒸発器へ。吸収液も冷媒も、機内を循環し続けます

要するに、圧縮機の仕事を「吸収と再生」という化学と熱のプロセスが肩代わりしている機械です。動く部品が少なく静かで、電力消費が小さい代わりに、真空と溶液という繊細な内部環境を守り続ける必要がある。この原理から、保守の急所がすべて導かれます。

使いどころ: なぜ選ばれ、なぜ残っているか

  • 電気容量が小さくて済む。駆動は熱なので、受電設備の制約があるビルで強みを発揮します。GHPの選定理由と同じ構造です
  • 冷暖房を1台で。冷水も温水も作れる冷温水機として、機械室のスペース効率が良い
  • 排熱の活用。工場の蒸気・排熱を駆動源にできる場面では、エネルギー的に非常に合理的です
  • フロン冷媒を使わない。冷媒が水であるため、フロン規制の文脈では固有の立ち位置があります。フロン点検義務の対象管理とは別の管理体系になる点も、顧客説明で整理しておきたいポイントです

一方で、電動チラーの高効率化により、更新時に電動へ転換する判断も増えています。この判断は熱源更新の記事の枠組み(エネルギー単価・受電容量・2次側の状態)で行います。

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保守の3つの急所: 真空・溶液・水質

吸収式の保守は、圧縮式とは別の世界です。急所は3つあります。

1. 真空の維持

吸収式の生命線は機内の高真空です。わずかな空気(不凝縮ガス)の侵入でも、蒸発温度が上がり能力が大きく低下します。

  • 機内に侵入・発生した不凝縮ガスを排出する抽気装置の動作確認は、日常管理の中心です
  • 抽気の頻度が増えてきたら、気密の劣化(漏れ込み)や機内の腐食によるガス発生を疑うサインです
  • 「能力が出ない」の相談で、圧縮式の感覚で冷媒不足を探しても答えは出ません。吸収式では真空度と抽気状況から入るのが定石です

2. 溶液の管理

臭化リチウム溶液は、濃度・温度の条件によっては結晶化して流路を塞ぎます。停電・急停止・冷却水温度の急変が引き金になりやすく、結晶化すると復旧に手間のかかる厄介なトラブルです。

  • 正しい停止手順(希釈運転: 停止前に溶液を薄めて結晶化を防ぐ運転)の徹底が最大の予防です。建物側の管理者にもこの意味を説明しておきます
  • 溶液には腐食を抑える防食剤(インヒビター)が添加されており、定期的な溶液分析で濃度・防食状態を管理します。溶液分析はメーカー・専門会社と連携する領域ですが、「分析をしているか」を確認するのは保守会社の役目です

3. 冷却水の水質と伝熱面

吸収式は冷却水への依存が大きく、冷却塔の管理がそのまま性能を左右します。冷却水系の水質不良は、伝熱管のスケール・腐食として蓄積し、能力低下と機器寿命の短縮に直結します。冷却水温度の管理(低すぎても結晶化リスク)も含め、冷却水側は吸収式保守の主戦場です。

運用の注意: 建物側と共有すべき3点

吸収式は、運用の仕方が性能と寿命を大きく左右する機械です。保守会社として建物側と共有すべき運用ポイントを挙げます。

  • 冷却水温度の管理。冷却水は低いほど良いわけではなく、低すぎると結晶化のリスクが上がります。冷却塔のファン制御・水量管理と合わせて、メーカー指定の温度範囲を守る運用を徹底します
  • 立ち上がりの時間を見込む。吸収式は電動チラーに比べて起動から定格能力までの時間が長い特性があります。朝の冷房立ち上げの運転スケジュールは、この特性を前提に組みます。「朝イチで効かない」というクレームの原因が、故障でなく運転開始時刻の設定だった、という例は珍しくありません
  • 停止手順の遵守。希釈運転を省略した急停止・停電後の放置が結晶化の引き金です。計画停電・電気設備点検の日程は事前に共有してもらい、正しい停止と復旧の手順を保守会社が関与できる体制にします

なお、吸収式には駆動熱源や再生の段数による方式の違い(ガス焚き・蒸気焚き、二重効用など)があり、効率と保守の細部は機種によって変わります。自社が保守する機器の方式・仕様をメーカー資料で把握しておくことが、すべての前提です。

不調のサインの読み方

  • 能力不足: 真空度・抽気頻度、冷却水温度・水質、溶液状態の順で疑います
  • 立ち上がりが遅い: 熱源側(バーナー・蒸気供給)の状態と、伝熱面の汚れを確認します
  • 運転データの記録が診断の土台です。温度・圧力・抽気の記録を点検の型で継続していれば、劣化はゆっくり見えてきます

なお、吸収式の内部整備・溶液の取り扱いは専門性の高い領域です。自社の守備範囲(日常管理・外回り・冷却水系)と、メーカー・専門業者に任せる範囲(機内整備・溶液処理)の線引きを明確にした保守体制が現実的です。廃棄・更新時の溶液の処理も、専門ルートでの適正処理が前提になります。

まとめ

  • 吸収式は「熱と吸収液」で冷凍サイクルを回す機械です。冷媒は水、生命線は真空です
  • 保守の急所は真空・溶液・冷却水の3つ。圧縮式の感覚を持ち込まず、抽気と希釈運転と水質から見てください
  • 結晶化は停止手順の教育で防げる事故です。建物側への説明も保守の仕事です
  • 更新時は電動転換も含めた熱源更新の枠組みで判断し、専門領域はメーカーと連携する体制を組んでください

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