空調工事の労災事例|墜落・感電・火災など6類型と再発防止策
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編集・発行:KMC株式会社
空調工事の労災事例は、墜落・転落、感電、火災、重量物・落下、酸欠、熱中症の6つの型にほぼ収まります。なかでも墜落・転落は建設業の死亡災害で最も多い型で、厚生労働省の集計では令和7年の建設業の死亡者214人のうち91人が墜落・転落によるものでした。どの型も「電源を元から切らなかった」「断熱材が燃えると知らされていなかった」「一人で屋上に上がった」といった、決まった構図で繰り返されています。
この記事では、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」で公表されている災害事例を型ごとに紹介し、空調工事の現場に当てはめた再発防止策を整理します。記事中の「想定例」は、公表事例ではなく、空調工事でよくある場面を説明のために示したものです。
統計で見る建設業の労働災害(令和7年)
厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定)」から、空調工事に関係の深い数字を抜き出します。
| 項目 | 令和7年 | 出典 |
|---|---|---|
| 全産業の死亡者数 | 700人 | 厚生労働省 労働災害発生状況(確定) |
| 建設業の死亡者数 | 214人(前年232人) | 同上 |
| 建設業の死亡者のうち墜落・転落 | 91人 | 同上(事故の型別) |
| 建設業の死亡者のうち感電 | 6人 | 同上(事故の型別) |
| 職場の熱中症による死傷者数(全産業) | 1,803人(うち死亡19人) | 厚生労働省 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値) |
| うち建設業 | 死傷292人(うち死亡5人) | 同上 |
建設業の死亡災害の4割強が墜落・転落です。空調工事は脚立・作業台・屋上・天井内での作業が日常的にあるため、この型への対策が最優先になります。
6類型と公表事例の早見表
| 類型 | 公表事例(職場のあんぜんサイト) | 主な原因 | 押さえる条文 |
|---|---|---|---|
| 墜落・転落 | 建物屋上の給排水管取替工事で、完了写真の撮影中に屋上の端から墜落(死亡) | 柵のない屋上での一人作業、墜落防止措置なし | 安衛則 第518条・第519条・第521条 |
| 感電 | 天井裏のファンコイルユニットの配線修理中に感電(死亡)/脚立が仮設配線を踏み4人が感電 | 元電源を切らずに作業、被覆の傷んだ仮設配線 | 安衛則 第339条(停電作業を行う場合の措置) |
| 火災 | アセチレンの溶断作業の火花が壁の断熱材(硬質ウレタンフォーム)に着火(死亡) | 可燃物の調査と周知なし、無資格者の作業 | 安衛則 第279条・第291条、安衛令 第20条第10号 |
| 重量物・落下 | ダクト取替工事で天井クレーンのフックブロックとダクトが落下(負傷) | 巻過防止装置に手を加えた、操作ミス | クレーン等安全規則 |
| 酸欠 | 長期間密閉されていた配管ピットで酸素欠乏症(休業) | 酸素欠乏危険場所との認識なし、測定・換気なし | 酸素欠乏症等防止規則 第3条・第5条 |
| 熱中症 | (統計)令和7年の建設業の死傷292人 | 暑熱な場所での連続作業 | 安衛則 第612条の2 |
以下、型ごとに事例と対策を見ていきます。
類型1: 墜落・転落
公表事例: 下水処理場の中央操作室屋上(地上から高さ9.1m、周囲に柵なし)で、給排水管取替工事の完了写真を撮影していた建築設備工事業の作業者が、カメラをのぞきながら移動して屋上の端に気づかず墜落し、死亡しました。災害発生時は一人作業で、墜落防止の措置も監視人の配置もありませんでした。
想定例: 天井カセット形エアコンの最後の締め付けのために脚立に乗り、身を乗り出してバランスを崩す。点検口から天井内に上半身を入れて作業中、足場にしていた脚立がずれる。
- 高さ2m以上で墜落の危険がある場所では作業床を設け、困難なときは防網や墜落制止用器具(フルハーネス等)で墜落を防ぎます(安衛則 第518条)。作業床の端・開口部には囲い・手すり・覆いを設けます(第519条)
- 墜落制止用器具を使わせるときは、取り付ける設備を設けます(第521条)
- 脚立は脚と水平面の角度を75度以下とし、折りたたみ式は開き止めの金具を備えたものを使います(第528条)
- 写真撮影や検査のような「作業の後の作業」も高所作業として扱い、一人で上がらせないルールにします
詳しくは天井内・高所作業の安全対策で条文ごとに整理しています。
類型2: 感電
公表事例1: 病院の天井裏で、ファンコイルユニット(天井裏の空調機、100V)のモーターバルブの電線を接続していた電気技師が感電し、死亡しました。室内のリモートスイッチは切られていましたが、元の電源は遮断されておらず、電線は充電されていました。被災者は接地された亜鉛鉄板の外箱にまたがり、素手で作業していました。
公表事例2: 建築設備工事業の作業者2人がアルミ製の脚立で既設配管の移設作業中、脚立の足が200Vの仮設配線を踏んで被覆が剥がれ、感電しました。助けようとした2人も脚立に触れて感電し、計4人が被災しました。脚立は滑り止めゴムが傷んでおり、感電時の救出方法を定めたマニュアルもありませんでした。
- 「リモコンで止めた」は停電ではありません。分電盤の元の開閉器を切り、検電器で無電圧を確かめてから作業します
- 開路に使った開閉器には、作業中、施錠するか通電禁止の表示をするか監視人を置きます(安衛則 第339条第1項第1号)
- 仮設配線は作業前に被覆を点検し、踏まれない養生をします。脚立の滑り止めゴムも点検対象です
- 感電した人に素手で触れない救出方法を、作業前に共有します
電気工事との工事区分をはっきりさせることは、誰が電源を切るかという安全の区分でもあります。
類型3: 火傷・火災
公表事例: 倉庫の解体工事で、アセチレンガスを使って鉄骨の保管棚を溶断していたところ、作業者の脇の壁から出火し、1人が死亡しました。倉庫は低温貯蔵庫として使われていたもので、壁全面に断熱材(硬質ウレタンフォーム)が吹き付けられていましたが、燃えやすいことは作業者に説明されていませんでした。3人の作業者は資格を口頭で確認されただけで、実際には全員がガス溶接の資格を持っていませんでした。
想定例: ロウ付けの火花が天井内の断熱材に落ち、作業終了後にくすぶり出す。冷媒や油が残った配管に火を当てる。
- 可燃性ガスと酸素を使う溶接・溶断・加熱の業務は、ガス溶接技能講習の修了者などでなければ就かせられません(安衛令 第20条第10号、安衛則 第41条・別表第三)。資格は修了証で確認します
- 火災のおそれがある場所では火気を使わず(安衛則 第279条)、油類が残るおそれのある配管は除去等の措置をしてから火気を使います(第285条)
- 火気を使った人は残火の始末をします(第291条第3項)。作業後に時間を置いて再確認する手順を決めておきます
資格と手順はガス溶接・溶断に必要な資格と特別教育、冷媒側の注意はR32など微燃性冷媒の取り扱いと冷媒配管のロウ付けにまとめています。
類型4: 重量物・落下(はさまれ・激突・腰痛)
公表事例: 製鋼工場の水冷ダクト取替工事で、借りた天井クレーンで古いダクトを吊って移動中、フックブロックとダクトが約14mの高さから落下し、下にいた作業者1人が負傷しました。揚程を稼ぐために非常用の巻過防止装置に手を加えて使い、常用の巻過防止装置は故障したまま貸与されていました。
想定例: 人力で階段を上げていた室外機が落ち、下の作業者に当たる。吊り荷が振れて壁との間に挟まれる。無理な人力運搬を重ねて腰を痛める。
- 安全装置に手を加えない、故障したクレーンは使わない・貸さない
- 吊り荷の下に人を入れない。玉掛けの資格はクレーンのつり上げ荷重で決まります(室外機の玉掛け方法と資格)
- 人力で運ぶ上限と、台車・揚重機に切り替える基準を社内で決めておきます
類型5: 酸欠・冷媒による障害
公表事例: 工場新築工事で、約4カ月密閉されていたトイレ用配管ピットの型枠を解体していた作業者が酸素欠乏症で倒れました。雨水がしみ込んで微生物が酸素を消費しており、事業者は酸素欠乏危険場所との認識がなく、作業前の測定も換気もしていませんでした。
想定例: 機械室で漏れた冷媒が低い所にたまり、入室した作業者が倒れる。助けに入った同僚も倒れる。
- 酸素欠乏危険場所では、その日の作業を始める前に酸素濃度を測り、18%以上に保つよう換気します(酸素欠乏症等防止規則 第3条・第5条)
- 救出に入る人には空気呼吸器等を使わせます(同 第16条)。装備なしで助けに入らないことを全員の反射にします
手順はピット・機械室の酸欠対策、充填・回収時の保護具は冷媒の充填・回収で解説しています。
類型6: 熱中症
令和7年の職場の熱中症による死傷者は1,803人で、統計を取り始めた2005年以降で最多となりました。業種別では建設業が死傷292人、死亡5人です(厚生労働省 確定値)。夏の天井内・屋上・機械室は、空調業の人が冷房のない場所で働く典型的な場面です。
- 2025年の労働安全衛生規則の改正で、熱中症のおそれのある作業では、自覚症状や他の人の異変を報告させる体制を整えて周知すること、作業からの離脱・身体の冷却・医師の診察などの手順を作業場ごとに定めて周知することが義務になりました(安衛則 第612条の2)
- 一人作業を避け、連続作業時間・休憩・水分と塩分の補給を計画に入れます。繁忙期の段取りは繁忙期の乗り切り方も参考にしてください
6類型に共通する構造
公表事例を並べると、型は違っても同じ構造が見えます。
- 危険の情報が伝わっていない。断熱材が燃えやすいこと、ピットが酸欠のおそれのある場所であること、電線が生きていることが、作業者に知らされていませんでした
- 一人・作業の終盤・短時間。屋上の写真撮影、最後の配線接続のように「すぐ終わる作業」で起きています
- 決まりや装置の省略。資格の口頭確認、安全装置への細工、元電源を切らない慣行が、事故の前から続いていました
- 緊急時の備えがない。感電者の救出方法、酸欠時の救出装備が決まっていないと、二次災害につながります
月次安全会議で使うチェックリスト
この記事を教材にするときは、1回の会議で1類型を選び、次の項目を確認します。
- 今月の類型の公表事例を読み上げ、「うちの現場で言えばどこか」を全員で挙げた
- その類型に関係する資格・特別教育の修了状況を台帳で確認した(ガス溶接技能講習、フルハーネス型墜落制止用器具の特別教育など)
- 墜落: 脚立の開き止め金具・滑り止めゴム、墜落制止用器具の取付設備を点検した
- 感電: 元電源の遮断・検電・施錠表示の手順を確認した。検電器の動作を確認した
- 火災: 火気作業の前に周囲の可燃物(断熱材など)を確認する手順と、残火確認の時間を決めた
- 酸欠: 酸素濃度計の校正と、救出用の空気呼吸器等の所在を確認した
- 熱中症: 報告体制と、離脱・冷却・受診の手順を作業場ごとに周知した
- 直近のヒヤリハットを類型に当てはめ、上の「共通する構造」のどれだったかを話し合った
6類型を半年で一巡すれば、安全教育が年中行事から習慣に変わります。KYの型と組み合わせると朝礼でも使えます。手順は作業手順書・安全書類に、ヒヤリハットの件数や保護具の整備状況は経営指標として管理し、教材は新人教育にも流用してください。
まとめ
- 空調工事の労災は、墜落・転落、感電、火災、重量物・落下、酸欠、熱中症の6類型に整理できます
- 令和7年の建設業の死亡者214人のうち91人が墜落・転落で、最も多い型です。熱中症の死傷者は全産業で1,803人と過去最多でした
- 公表事例に共通するのは、危険の情報が伝わっていない、一人・終盤・短時間、決まりの省略、緊急時の備えがない、の4点です
- 資格・停電と検電・可燃物の確認・酸素濃度の測定・熱中症の報告体制は、いずれも法令で定められた事項です。会社の手順に落として毎月確認してください
出典・参考
- 厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定)」(PDF)
- 厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表」
- 厚生労働省「2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」(PDF)
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「建物屋上の給排水管取替工事の完了写真撮影中、屋上から墜落」
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「天井裏の空調設備の配線修理中に感電し死亡」
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「脚立を用いて既設配管の移設作業中、脚立が仮設配線を踏み、作業者が感電」
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「アセチレンガスを用いた溶断作業で出火」
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「天井クレーンでダクトをつり上げ作業中、フックブロックが落下し負傷」
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「配管ピット内における酸素欠乏症」
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索。第41条・別表第三、第279条、第285条、第291条、第339条、第518条、第519条、第521条、第528条、第612条の2)
- 労働安全衛生法施行令(e-Gov法令検索。第20条第10号)
- 酸素欠乏症等防止規則(e-Gov法令検索。第3条・第5条・第16条)
法令・統計は改正・更新されることがあります(最終確認:2026-10-01)。
関連リンク
※ 2026年10月1日:冒頭で労災の6類型と建設業の墜落・転落の死亡者数を言い切る形に改め、厚生労働省の令和7年労働災害統計と熱中症統計の早見表、職場のあんぜんサイトで公表された実際の災害事例(屋上墜落・天井裏の感電・脚立と仮設配線の感電・断熱材への着火・ダクト吊り荷の落下・配管ピットの酸欠)、関係条文、月次安全会議のチェックリスト、出典を追加しました。説明のための場面は「想定例」と明記しました。
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