ピット・機械室の酸欠対策|酸素欠乏危険作業の基準と手順
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編集・発行:KMC株式会社
結論: 酸素18%未満は「酸素欠乏」。測る・換気する・見張るが法令の骨格
ピットや機械室での酸欠対策は、酸素欠乏症等防止規則(酸欠則)で骨格が決まっています。空気中の酸素濃度が18%未満の状態が「酸素欠乏」で、酸素欠乏危険場所での作業では、その日の作業を始める前に酸素濃度を測り、作業中は18%以上に保つよう換気し、作業主任者の選任・特別教育・監視人の配置・救出用の空気呼吸器の備え付けが求められます(酸欠則 第2条・第3条・第5条・第11〜13条・第15条・第16条)。
酸欠は「気づいたときには倒れている」災害
労働災害の中で、酸素欠乏症は特異な性格を持っています。目に見えず、臭いもなく、厚生労働省の教材が「酸素濃度が低い空気を1回吸い込んだだけで死亡することもある」と注意しているとおり、異常に気づいてから逃げる時間がないことです。「息苦しくなったら出ればいい」という直感は通用しません。倒れてから助けを呼ぶことはできず、助けに入った同僚が続けて倒れる二次災害が、この災害の最も悲惨な定型です。
空調の仕事は、地下機械室・配管ピット・タンクまわり・マンホール内の配管スペースなど、換気の悪い閉鎖空間に立ち入る機会が日常的にあります。しかも空調業には固有のリスクが重なります。冷媒ガスの漏えいです。フルオロカーボン系の冷媒(フロン類)は空気より重く、ほとんど臭いで気づけないため、漏えいすれば低所に滞留して酸素濃度を下げます。機械室・ピットは、その滞留が起こる場所そのものです。
本記事では、酸欠の仕組みと法令の要点、作業を安全に組み立てる実務を整理します。
なぜ酸素が減るのか: 空調現場の3つの経路
閉鎖空間の酸素が減る主な経路を、空調の現場に即して挙げます。
- 冷媒・不活性ガスの滞留。冷媒漏えいや、窒素を使う作業(気密試験・窒素ブロー・置換)の排気が閉鎖空間に溜まると、酸素が押しのけられます。「窒素は無害」という感覚は、開放空間だけの話です
- 生物・化学的な酸素消費。ピット内の滞留水・汚泥・錆(金属の酸化)は、閉め切られた空間の酸素をゆっくり消費します。長期間閉鎖されていた空間ほど危険、というのはこの理屈です
- 隣接空間からの流入。下水・ガス配管系統からの硫化水素等の有毒ガス流入が重なる場所もあります。酸欠と中毒のリスクは、実務ではセットで扱います
重要なのは、「昨日は大丈夫だった空間が今日も安全とは限らない」ことです。空気の状態は変動します。だから測定が絶対なのです。
酸素欠乏症等防止規則の要点(早見表)
条文は e-Gov 法令検索の酸欠則(2026年4月1日施行の改正を反映した版)で確認した内容です。
| 項目 | 規則の内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 酸素欠乏の定義 | 空気中の酸素濃度が18%未満の状態。硫化水素が百万分の10(10ppm)を超える状態と合わせて「酸素欠乏等」 | 第2条 |
| 作業環境測定 | その日の作業を開始する前に酸素濃度(第二種では酸素と硫化水素)を測定し、日時・方法・箇所・条件・結果・測定者・講じた措置を記録して3年間保存 | 第3条 |
| 換気 | 酸素濃度を18%以上(第二種では硫化水素10ppm以下も)に保つよう換気。換気に純酸素を使ってはならない | 第5条 |
| 墜落制止用器具 | 酸欠で転落するおそれがあるときは墜落制止用器具等を使用させ、取付設備を設ける | 第6条 |
| 人員の点検 | 入場・退場のたびに人数を確認 | 第8条 |
| 立入禁止 | 作業者以外の立入りを禁止し、その旨を表示 | 第9条 |
| 作業主任者 | 技能講習修了者から酸素欠乏危険作業主任者を選任。作業方法の決定・指揮、作業開始前や再開前の測定、器具の点検、空気呼吸器等の使用状況の監視を行わせる | 第11条 |
| 特別教育 | 酸素欠乏の原因、症状、空気呼吸器等の使い方、退避と救急そ生の方法など | 第12条 |
| 監視人 | 常時作業の状況を監視し、異常を直ちに通報する者を置く等 | 第13条 |
| 退避 | 酸素欠乏等のおそれが生じたら直ちに作業を中止し退避させる | 第14条 |
| 避難用具 | 空気呼吸器等・はしご・繊維ロープ等を備える | 第15条 |
| 救出時 | 救出作業に従事させる者には空気呼吸器等を使用させる | 第16条 |
第一種と第二種の違い
酸欠則は、酸素だけが問題になる作業を第一種酸素欠乏危険作業、酸素欠乏と硫化水素中毒の両方のおそれがある一部の場所(し尿・汚水などが入っていたピット等、労働安全衛生法施行令 別表第六の第3号の3・第9号・第12号)での作業を第二種酸素欠乏危険作業と区別しています(第2条)。第二種では作業主任者に「酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者技能講習」の修了が必要で、測定も酸素と硫化水素の両方が対象です(第3条・第11条)。
空調工事で当たりやすい「酸素欠乏危険場所」
労働安全衛生法施行令 別表第六のうち、空調・設備工事で出会いやすいものを抜き出すと次のとおりです。
| 別表第六 | 場所の例(条文の要旨) | 空調工事での場面 |
|---|---|---|
| 第3号 | ケーブル・ガス管その他地下に敷設される物を収容する暗きょ・マンホール・ピットの内部 | 配管ピット・共同溝での配管作業 |
| 第3号の2 | 雨水・河川の流水・湧水が滞留している、または滞留したことのある槽・暗きょ・マンホール・ピットの内部 | 雨水が溜まった配管ピット、新築時の床下ピット |
| 第9号 | し尿・汚水など腐敗・分解しやすい物を入れてある、または入れたことのある槽・管・マンホール・ピット等の内部 | 排水ピット・汚水槽まわり(第二種に該当しうる) |
| 第11号 | ヘリウム・アルゴン・窒素・フロン・炭酸ガスその他不活性の気体を入れてある、または入れたことのあるボイラー・タンク等の施設の内部 | 窒素置換・フロンを扱った容器や設備の内部 |
厚生労働省の災害事例には、工場新築工事で約4カ月密閉されていたトイレ用配管ピットの型枠解体中に作業者が酸素欠乏症で倒れた例があります。雨水がしみ込んで微生物が酸素を消費しており、酸素濃度は16%程度でした。事業者に酸素欠乏危険場所との認識がなく、作業前の測定も換気もしていなかったことが原因とされています。
なお、機械室そのものは別表第六に列挙された場所ではありません。ただし冷媒が大量に漏れた機械室は、法令上の区分にかかわらず酸欠の危険がある空間です。法令の適用に迷う場所は所轄の労働基準監督署に確認し、実務では「測ってから入る」を原則にしてください。
安全に立ち入る基本手順
上の条文を現場の段取りに落とすと、骨格は次の5段階です。
- 事前の特定。作業場所が酸欠リスクのある空間かを、作業計画の段階で特定します。地下機械室・ピット・長期閉鎖区画・冷媒大量保有室は、迷ったらリスクありとして扱います
- 測定。立ち入り前に酸素濃度計で測定し、結果を記録します(酸欠則 第3条は記録の3年保存まで求めています)。測定は入口からではなく、空間の複数点(特に低所)で行うのが原則です。冷媒滞留の可能性がある場所では、冷媒検知器の併用が空調業の作法です
- 換気。測定結果にかかわらず、作業中は送風機等での連続換気を基本にします。自然換気に頼った「扉を開けたから大丈夫」は、奥まった空間では機能しません。換気に純酸素を使うことは禁止されています(第5条第3項)。酸素ボンベで「空気をきれいにする」発想は火災の危険を招きます
- 監視。単独作業を禁止し、外部に監視人を置きます(第13条)。監視人の役割は「見ていること」と「入らずに通報すること」です。入退場時の人数確認も欠かしません(第8条)
- 継続測定。作業中も濃度の変化を監視します。冷媒配管を触る作業では、作業自体が漏えいの原因になり得るからです。全員が場所を離れた後に再開するときは、作業主任者が測り直します(第11条第2項)
空調業ならではの注意場面
- 冷媒漏えい事故対応。「機械室で冷媒が漏れたらしい」という要請ほど危険な出動はありません。換気と測定なしに飛び込まないこと。漏えい対応の手順に、酸欠管理を必ず組み込んでください
- 窒素作業の排気管理。閉鎖空間での気密試験・窒素置換では、排出先を屋外・換気の効く場所に設定します。試験する部屋に窒素を吐き続ける計画は、それ自体が酸欠の製造です
- ドレン・排水ピットの清掃。汚泥のあるピットは、酸欠と硫化水素の複合リスク空間です。保守メニューにピット清掃を含める場合は、この管理レベルを見積と手順に織り込みます
- 大量冷媒の機械室。チラー等の冷媒保有量が大きい機械室では、漏えい検知・換気設備が設けられている場合があります。その設備が生きているか(検知器の校正・換気の動作)を点検で確認することは、熱源保守の重要項目です
入域前チェック表と装備リスト
現場で迷わないために、閉鎖空間に入る前の確認を1枚の表にしておきます。
- 作業情報: 場所・作業内容・入域者・監視人・連絡手段
- 事前確認: 空間の用途と履歴(閉鎖期間・過去の測定値)、冷媒・ガス設備の有無、建物側の立ち入りルール
- 測定: 酸素濃度(複数点・低所含む)、必要に応じて硫化水素・可燃性ガス・冷媒の測定値と時刻
- 換気: 送風機の設置位置・風量・排気先、換気開始からの経過時間
- 退避: 退出経路、異常時の合図、救助体制(装備の所在)
装備の標準リストも決めておきます。酸素濃度計(校正内)、送風機とダクトホース、墜落制止用器具(縦孔用)、照明、無線・連絡手段、そして救助用の空気呼吸器等の所在確認。すべてを毎回持つ必要はなくても、「どこにあるか全員が知っている」状態が最低条件です。
チェック表の効用は、確認漏れの防止だけではありません。表があることで、経験の浅い作業者が「測定してからにしましょう」と言いやすくなります。安全の仕組みとは、正しい行動を言い出しやすくする仕組みでもあります。
救助の原則: 「助けに入らない」勇気
酸欠災害の教育で最も強調すべきは、救助の原則です。
- 倒れた人を見ても、無防備に入ってはいけません。二次災害の防止が最優先です。この一文を、全員が反射で言える状態にしてください
- 直ちに通報し、換気を最大化し、救助は空気呼吸器等の装備がある体制で行います。救出作業に就く人に空気呼吸器等を使わせることは、酸欠則 第16条の義務です
- 「自分は一瞬だから大丈夫」が、二人目の被災者の共通の思考です。監視人の役割教育で、この心理まで含めて扱います
会社の仕組みに落とす
- 教育の実施と記録。対象者への特別教育(第12条)・作業主任者の選任体制(第11条)を整え、資格台帳で管理します
- 測定器の整備。酸素濃度計・冷媒検知器を保有し、校正・電池・貸出を管理します。「測定器がないから測らなかった」を構造的に排除してください
- 作業手順書とKY。酸欠リスクのある作業の手順書に測定・換気・監視を明記し、KY活動の定番テーマとして繰り返します
- 元請・建物側との連携。ピット・機械室の立ち入りルール、過去の測定記録、換気設備の状態を、入場前に確認する習慣をつけます
- 顧客への説明。酸欠管理に要する時間・人員(監視人)は、見積上の原価でもあります。「安全管理費を削って早く安く」という要請には、この作業の危険性を根拠を持って説明し、譲らないことが会社の姿勢です
まとめ
- 酸欠は一呼吸で倒れ得る、直感の通用しない災害です。冷媒・窒素を扱う空調業は当事者です
- 酸素18%未満が酸素欠乏。作業前の測定と記録(3年保存)、18%以上を保つ換気、作業主任者・特別教育・監視人が法令の骨格です
- 基本手順は特定・測定・換気・監視・継続測定の5段階。測定は低所を含む複数点が原則です
- 冷媒漏えい対応・窒素作業・ピット清掃は、空調業固有のハイリスク場面として手順化してください
- 救助の原則は「装備なしで入らない」。二次災害防止を全員の反射にすることが、教育の最重要ゴールです
- 法令の適用に迷う場所は所轄の労働基準監督署に確認してください
出典・参考
- e-Gov法令検索 酸素欠乏症等防止規則(昭和47年労働省令第42号) 第2条・第3条・第5条・第6条・第8条・第9条・第11〜16条
- e-Gov法令検索 労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号) 別表第六(酸素欠乏危険場所)
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「配管ピット内における酸素欠乏症」(災害事例)
- 厚生労働省「外国人労働者に対する安全衛生教育教材(建設業)電気通信業務」(PDF)
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「技能講習名称一覧表」
法令は改正されることがあります(最終確認:2026-09-30)。
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